top of page

SIDE:R Episode VOGEL'G

月下狂乱

前編

著:NAOKI
​イラスト:森下直親

「まもなく目的地上空。ブリッツシュラーク隊降下準備。」 「B01了解」 「B01、作戦のリマインドを願います」 「我々ブラボーチームとケニーのチャーリーチームがポイント降下後、付近を撹乱しつつ先発部隊のリーパーを撃破。第2陣の敵本隊であるGR部隊を引っ張り出したところでアルファチームと共に国境沿いで待機中のあのイカれたGRにご登場願う。で、その間に我々は目標施設破壊へ向かう。間違いないな?」 「間違いありませんが、言葉を慎んでください少尉。レイブンワンは我がラボが」 「あー失礼。失言だった。ともかく我々は先に降りて露払いをしておく。撤収時アルファチームにしっかり回収するよう伝えてくれよ?」 「問題ありません。では30秒後にハッチ開きます。よろしく。」 …ったく。ご武運を、ぐらい言えないのかねラボの学者さんは。まぁ言われたところで生存確率が上がるわけでもないが。 「どうだ?初めてのブリッツは。」 ブラボーチームを率いるブライアン少尉は降下前の部下の緊張をほぐすべくニック伍長に問う。 「いいですね。機体も操縦系統も軽い。足周りはフォーゲルグと同じものが組み込まれていると聞きましたが、まったく違和感ないですね。自分が乗っていたグリズリーとは違います。地上戦も楽しみだ。」 「帝国のパーツだって使えるからな。敵対国の兵器と規格が一緒なんざナンセンスな話だが、それで儲かる奴らがいるんだろうさ。」 ブライアン達が搭乗しているブリッツシュラークは、そのコアであるユングフラウユニットはIMSが倭の国の助力を得て開発したものだが、ニックが言うように脚部にはワイズ連邦軍の主力リーパー、フォーゲルグと同様のものがセットされている。この全世界共通規格によるフレキシビリティとコストパフォーマンスの良さがリーパーという兵器が戦場の主力足り得る所以だ。 ほどなく飛行中のカーゴの後部ハッチが開く。そしてブリッツシュラーク部隊が墨を流したような真っ暗な夜空へとその身を投げ出す。 「ほぅ!見事な月だ。こんな月夜にあのゲテモノに襲われる敵さんも気の毒だが…これも任務だ。行くぞ」 ブライアン達が所属しているのは、旧東南アジア地域で勢力を伸ばしているIMS連合。ワイズ連邦加盟国同士で設立された連合国家で、IMSとしてもそのまま連邦加盟国家となっている。 同じく連邦加盟国であり、IMSを構成する3国家が連合を設立するきっかけとなった隣国ワドナイとは国境を跨ぐラウジール採掘地の自治権争いで絶え間なく揉めており、小規模な戦闘行為も後を絶たない。 当然、連邦としては加盟国家同士で争う事を良しとしないが、両陣営としては建前よりも自国の利益の方が重要である。 そうは言っても派手な大規模戦闘になってしまえば喧嘩両成敗とばかりに連邦本陣が介入してきて、採掘地は没収されて連邦の管轄下に置かれてしまう。最悪、加盟国除名などということにもなりかねない。 両陣営ともにそれは理解しているので、小競り合いを続けて牽制し合っているのが現状だ。 そして、昨今IMSを悩ませているワドナイの無人航空爆撃機。そのコントロール施設の破壊、というのが本作戦の表向きの目的であるが、もうひとつ目的があった。 ブライアン少尉が言うところの「イカれた」GRの稼働実験である。 奴の随伴で出撃するのもこれで3回目。見た目も異形なら戦い方も常軌を逸している。過去2回の戦闘でも随伴機として作戦に参加したが、あれは戦闘などではない。鏖殺だ。敵味方区別なく、とにかく奴の視界に入ったものを攻撃する。あれでは…まるで獣だ。 なので随伴とは名ばかりで、今回のようにお膳立てしたところで部隊は奴の目に付かないポイントまで撤退、ひとしきり暴れてバッテリーが切れて行動停止したところで残敵がいれば掃討、奴を回収するという、飢えた獣の世話係のような任務だ。前回失った部下の代わりに補充されたニックも作戦内容は把握しているが、実際目の当たりにしたらどんな感想を抱くだろうか。 仮定の話だが。もし奴が暴走したとして(暴走しているようにしか見えないのだが)、今出撃した2個小隊、8機のブリッツシュラークで相対したとしても止められるかどうか。 そんな状況は勘弁願いたいが、戦闘中にうっかり奴の視界に入ればそうなってもおかしくない。 パイロットがヤバい奴なのか機体のせいなのか。 いくら戦闘力が高いとはいえ、戦争とは愚かな行為であるが故に理性のある動物、人間が行うべきものだ。手綱のない獣を使うなど… などとブライアンが考えていると、ブリッツシュラークのコックピットにアラート音が響く。馬鹿な。 「なに?対空砲火だと!?アルファチームめ、対空設備は事前に使用不能にするんじゃなかったのか?ええい、迎撃来るぞ。降下しながらでも避けつつ砲台を潰してみせろ。」 「やってみせますけどね、隊長。これでは作戦が」 「迎撃があろうがなかろうが、どのみち我々は陽動だニック伍長。高いところから飛び降りて地上に降りたら所構わず撃ちまくって敵の目を引く。要はバカのふりをしろってことさ。それにアルファチームの奴ら、メインの砲台は潰したようだ。取りこぼしの鳥避けみたいな対空機関砲だ。リーパーには致命傷にはならん。だが、本作戦前だ。当たるなよ?」 「バカのふり…ですか。実際バカげた作戦ですよ。こんな囮役、命知らずの傭兵にでもやらせりゃいい。これじゃあ我々はまるであのGRの前座ですよ。」 「実際そうなんだろうさ。でもって、あのゲテモノと一緒の任務じゃ部外者には頼めないんだろうよ。貴様も見ればわかる。まぁ、我々とブリッツならその無茶な前座でもきっちり盛り上げられると見込んでくれたんだろうさ。奴が暴走した時の抑え役としてもな。」 「暴走、ですか。そんな事態になるとはブリーフィングでは聞かなかったですけど…」 抑えられるものか、あんなゲテモノ。 ニックにそうは言ったものの、ブライアンは先ほどの自問に自答した。 その直後、ニックのすぐ横で機体が爆散し眩しい光が爆ぜた。 マーカーを確認するとチャーリーチームの3番機、ヒューイ伍長だ。 「ヒューイ!どうした!?応答しろ!!」 ケニー少尉の無線が響く。しかし応答はない。 「全員シールドを前面に!動けよ!鳥避けでも当たりどころが悪ければああなる!!」 ブライアンが部下達に叱咤する。 「空中でそんな器用に!!」 動けませんよ!と、ニックは思ったが、ブライアン機を見るとと降下用の補助バックパックと脚部の展開式スラスターだけで空中を細やかに動いている。さすがです隊長…! 地上からの掃射は続く。しかし、歴戦のブリッツシュラーク部隊はこれを回避しつつ砲台を潰していく。咄嗟の事態にも対応する適応力は伊達ではない。 「間もなく着地!各機制動準備!さて、ここからが本番だぞ。気合いを入れ直せよ?」 かくしてブラボーチーム4機、チャーリーチーム3機のブリッツシュラーク部隊は地上に降り立った。 対空設備を一部取りこぼしたものの、それ以外はアルファチームが国境沿いからの長距離射撃によって任務を果たしていた。そして想定どおりレーダーが敵先発リーパー部隊の接近を捉えた。こいつらがオレ達の本命だ。 〜続く〜

blitzschlag-pkg_edited.png

夜空を降下するブリッツシュラーク部隊。迎撃はない筈だったが、対空射が部隊を襲う!

hand_edited_edited.png
  • Twitter
  • Youtube
  • Instagram

© NAOKI

bottom of page