
SIDE:R Episode PANHEAD
彼女の理由
前編
著:NAOKI
イラスト:森下直親
砂漠を疾走する3体の人型のシルエット。 人間にしては大きく、先頭の1体には頭部らしきものが見えない。 リーパー。この時代を代表する人が操る人型兵器である。 エアリアルセキュリティ。 それが彼らと彼らが搭乗する機体が所属する組織の名だ。 エアリアルセキュリティはPMC(民間軍事企業)である。 国家や企業などの軍の教導隊として軍事教練を請け負う事もあれば、武力そのものとして雇われる事もある。 「メリッサ、前に出過ぎた!距離が空く」 「そうですよーセンパーイ!わたしたち大きい武器持ってるんですからね。身軽なセンパイと違うんですから!」 後方のワイズ連邦圏で多く使用される機体、フォーゲルグ2機から先頭の頭部のない1機、パンヘッドに通信が入る。 わたし、一応あなた達の上司なんだけど。メリッサと呼ばれたパイロットは心の中で愚痴る。 「前に出なきゃ強行偵察の意味ないでしょーが。わたし1人でもいいんだけど、一応あなたたち私の護衛なんだからちゃんとついてきてよね」 彼女の言うとおり、彼女達の小隊は強行偵察が任務である。 この砂漠に巣食うクリプテッドの群体が近くのオアシスを襲うようになり、その撃退が今回の任務であり、彼女たちの役目は本隊から先行してクリプテッドの正確な位置情報を隊に共有する事。 パンヘッド、というのは正式な名称ではない。 リーパー、フォーゲルグのバリエーション機であり、正式な名称もフォーゲルグなのだが、その平たい頭部形状からパンヘッド=フライパン頭と呼ばれている。その頭部に搭載された元機よりも優れたセンサー類と脚部に増設されたスラスターによる機動力が特徴で、索敵任務や今回のように機動力を活かした強行偵察任務にも用いられる。 会敵した際の攻撃力も備えているが、機動性を活かす為最低限の武装しか装備しておらず、その分護衛の2機が強力な火器を装備しているという訳である。 だが、カーゴから降下して20分、未だパンヘッドのセンサーに反応する敵性物体は発見出来ていない。 「センパイ、やっぱりこんなに暑くちゃクリプテッドちゃん達も表に出てこないんじゃない?」 だからわたし隊長なんだけど…ハイスクールじゃないんだけどレイラ。 メリッサはハイスクール時代の後輩であり、偶然エアリアルセキュリティで再会、今では同じ部隊の上司部下の関係であるレイラの、上司である自分に対する当時と変わらぬ口調に対して度々注意をしているのだが、実はそれほど嫌なわけではない。 むしろこの自由な空気はこの組織に来て唯一心地良かった事だ。軍では良くも悪くもこうはいかない。 メリッサは自国の軍隊に所属していた。 それを無理矢理除隊させエアリアルセキュリティに入社させたのは、同社の取締役のひとりエンポリオ・エアリアル。彼女の父親でもある。 エアリアルセキュリティは、代々軍人の家系だったメリッサの祖父であるガウマン・エアリアルがそのコネクションを利用して立ち上げ、彼の代で業界でも5本の指に入る大手にまで成長させた。その大手の中で曲がりなりにも1部隊を率いているという事は、メリッサは相応の実力と統率力を持っているという事である。七光だけでは部下も命を預けられない。 だが。その出自故に彼女のポジションを素直に受け入れられない連中もいる。かくいうメリッサ自身もその1人だ。 だからこそ彼女は真っ先に戦場に駆けつける強行偵察という任務を進んで志願した。 ここで功績を積み上げれば周囲も、そして自分も納得させられる。 その上でバカ兄貴をブン殴りに行く。 彼女の兄、エイドリアン・エアリアルは、家業を継ぐ事を嫌い出奔、エアリアルの名を隠してフリーの傭兵をしている。そのおかげで軍にいた彼女にお鉢が回ってきたという訳だ。最近はなにやら師と仰ぐ傭兵にストーカーよろしく付き纏っているらしい。お目付役として同行しているサカモトもさぞ大変だろう。 ともあれ。自身の力を正当に評価してほしくて国軍に入隊したが、その軍でも祖父の威光は未だ絶大であり、結局正当な評価が下されているのか悩んでいたところだったので、渡りに船ではあった。どうせ逃れられない七光であれば、より自由に能力を発揮できる場所の方がいくらかましだ。 「なぁメリッサ、こりゃ本当に成果があがらないかもだぜ。」 もう1機のフォーゲルグのパイロット、スヴェンだ。 「いや、いたよ。見つけた。さすがパンヘッドね。けど、なにこれ…大きい!」 後続の2機よりも優れたパンヘッドの対地センサーが地中奥深くのクリプテッドを探知した。 しかし、そのセンサーが探知したのは一体のみ。だが、なんだこれは?異常に大きい個体だ。 「すまん、こっちのセンサーにはまだ引っかからないが、大型個体となると情報と違うな?」 「そうなの。情報では群体よね?いま捉えてるのはかなり大きい個体よ。大きいけど…早いわコイツ」 「どうする?目標と違うみたいだから見逃すか?」 「うーん…看過出来ないサイズだけど、リーパーだけじゃちょっと対応出来ないかも。」 「どうするーセンパイ?うっかり釣り上げてわたしたちの手には負えませんでしたとか言ったらまたパパさんに大目玉くらっちゃうよ?」 レイラのやつ、痛いところを…! 確かに我々のミッションは小型群体クリプテッドの討伐であり、超大型は今回の目標ではない。 だが、オアシスから遠くない砂漠にこんな危険因子を放置して別部隊に任せて良いのか? メリッサが逡巡している瞬間… 「え!?ウソ?反応が消えた?」 パンヘッドのセンサーから大型クリプテッドの反応が消えた。 そんなバカな。あんな大きな個体の反応が一瞬にして消えるなんて。 「どうしたメリッサ!何があった?」 「反応が消えたのよ!なんで…え?ウソ?」 センサーに再び反応が戻る。しかも先ほどとは200メートルほど離れた位置だ。まさか、瞬間移動でもしたのか?それとも2体目?まさかこんな巨体が2匹もいる訳… 「待って、また出た、南東200m先!何が起きてるかわかんないけど、消えてまた現れたのよ!どうなってんのよ畜生!」 「落ち着けメリッサ。こっちのセンサーには反応すらない。故障じゃないのか?」 「違う…はず!また消えた!なにこれ⁉︎いえ待って、また出た!こっちに向かってくる!」 何がどうなっているのか。 超大型な反応が消えては現れる。わかっているのは向こうはこちらの存在を捉えて近付いてきているという事。 これじゃ逃げる訳にもいかない! 「2人とも、いい?何が起こってるのかわからないけど相手はこっちに近付いてきてる。逃げるっていう選択肢はなさそうよ。どのみち攻撃してくる時は地上に出てくるだろうからその瞬間を狙いましょう」 「こっちのセンサーでも捉えた。確かに向かってきてるな。このまま撤退してもオアシスへ連れてってしまうかもしれん。迎撃に賛成だ。」 「そーね。てか最初からそのつもりだったんでしょメリッサは。」 「そんなこともないけど…いい?火力はあなたたちの方が上だから任せたわよ。会敵は…12秒後。出てきたところを囲んで蜂の巣よ。」 センサーから消えては現れる敵。だが、こちらへ向かってくるのなら・・・ 〜続く〜




