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SIDE:GR Episode EDELSTEIN 

海上騎兵隊(デュランダーナ)

前編

著:NAOKI
​イラスト:森下直親

ワイズ連邦所属のカルナン国、T-56対クリプテッド機械化混成部隊は進退極まっていた。 審判の日以降に出来たカルナンは大西洋沿岸地域に位置する小国だ。隕石落下の影響でかつて風光明媚だった海外線は変化し複雑に入り組み、海からの上陸を阻んでいる。そんなカルナン領海内で小規模だがラウズ鉱石が発掘され、かつての観光地域は採掘業で潤うことになるが、そのエリアにはご多聞に漏れずクリプテッドが現れた。 しかもクリプテッドの巣は海岸線の岬にあり、その入り口は満潮になると水面に沈んでしまうため、侵入が困難なことからクリプテッドの討伐が難しいエリアのひとつとなっていた。これまでも小規模な討伐部隊の投入はあったが、港湾の大都市であるサンテ市街の被害が加速度的に増え続けているため、遂に本格的な討伐のためT-56の出動となった。 とはいえ採掘地帯のクリプテッド掃討という、T-56にとっては普段どおりの任務だった。 事前情報よりも大型個体が多いのは分析が甘かったせいだろうが、対応出来ない数ではない。 だが、今回はそれ以外にもイレギュラーな事態が起こっていた。 クリプテッドとの共存を主張する環境保護団体「シンビオシス」を名乗る武装組織による襲撃である。 クリプテッドは害獣ではなく地球に産まれた新たな種であり、無為に排斥するのは人間のエゴであり共存共栄の道を模索すべきというのが彼らの主張だ。確かにクリプテッドを生物と認識すれば彼らの主張に耳を貸すところがない訳ではない。しかし、現在化石燃料に変わる新エネルギーとして人類のライフラインにまで成長した「ラウジール」、その原石であるラウズ鉱石を採掘するにあたり、それを妨害するのがクリプテッドなのだ。被害は採掘地近隣にまで及んでおり、超大型クリプテッドのせいで街がひとつ消し飛んだという話まである。畢竟、これを排除するのは人類の復興、繁栄のためには仕方のない部分もある。 更に。その主張を通そうとする彼らの手段が血生臭すぎる。彼らの主張に相容れずクリプテッドを駆逐しようとする者は実力でこれを排除するというのが彼らのやり方で、特に軍内部のクリプテッド討伐部隊は彼らの最大目標のひとつとされている。 そのためカルナンではテロリスト認定されている組織であり、軍による武力排除が決定している。 他のテロ組織と異なるのは、彼らの武力が非常に強大だという事。中にはαGRも配備されており、ただの環境テロリストとしては明らかに過剰すぎる戦力だ。バックにパトロンがいるのは間違いないのだが、そこはまだ絞り切れずにいる。 噂ではクリプテッドをコントロール下に置き、兵器として転用する組織と繋がっているとの話もあるが、であれば本末転倒も良いところである。 そして。最悪な事態がもうひとつ。 この街、サンテ市自体がシンビオシスの本拠地のひとつだったという事。 つまり、多めに見積もられたこれまでの被害報告や今回の討伐要請自体がT-56を陥れるための罠だったのだ。 それに気付いた時はジャミングが張られ、内陸部との交信は既に出来なくなっていた。 辛うじて海側へ救難信号を飛ばすことは出来たが、それに気付く者が果たしているのだろうか。 巣窟のある岬から港まで降り造船場に立て籠って籠城戦を行っていたが、救援の見込みもなく市街地から押し寄せるシンビオシスの部隊と岬側から来るクリプテッドたちによって完全に追い込まれていた。 エグゾスケルトンを纏った歩兵部隊はほぼ全滅に近い状況、隊長機のαGRゴートサッカー、リーパーフェンリル改2体大破、βGRイーグレット2体中破、パイロット2名MIAという甚大な被害を被り、造船場での籠城はもう2日になる。 残った戦力は2チーム合わせてαGRナースホルン、βGRイーグレット2体、リーパーフォーゲルグ2体、フェンリル改1体。四面楚歌だ。 フォーゲルグがクリプテッドに狙いをつけ攻撃しようとするも、シンビオシスのリーパーが横合いから出てきて邪魔をする。連携していないのが救いだが、それでも非常にやりにくい。 「クリプテッドの前にまずあいつらを排除する。遠慮はいらん。定石通りリーパーは各個撃破、グリムリーパーは3体フォーメーションで当たれ。武装していようが練度はこちらが上だ。」 だが、狙いを定めると今度はクリプテッドが個別で襲撃してくる。厄介だ。更に… 「街の方から接近する機体が4体!この駆動音は…アルファです、アルファが4体急速接近!」 「な、アルファだと!?なんであいつらそんな戦力を?」 「北西の道を塞がれたらマジで退路がなくなります!その前になんとか…」 「んな事言われても!」 「もうすぐ夜明けだ。せめてもう少し見通しが良くなれば…くそ!」 同時刻。大西洋近海上。 連邦軍所属、環大西洋独立遊撃部隊「デュランダーナ」の空母、ロンスヴァル。今その甲板上では緊急発進のサイレンが鳴り響き、デッキクルーが慌ただしく駆け回っていた。 リフトアップ式のカタパルトに乗った10メートルはあろうかという機械の巨人二体が甲板にその姿を現し、白と紺の機体を昇り始めたばかりの朝陽が眩しく染め上げる。 両機とも肩にはその身長ほどはあろうかという長大なブースター「ハーゼンオール」が装備され、一方の頭部にはブレード状の一対の長い耳が、もう一方は烏帽子のように長く伸びた頭部の先のトサカが、それぞれの存在感を際立たせている。 頭部形状は異なるが、どちらもワイズ連邦の最新鋭機、「エーデルシュタインII」である。 巨人2体を載せたカタパルトが甲板まで上がりきるや否や管制塔から無線が入る。 「デッキクルーの退避完了。E-01、ランウェイ01、クリアードフォーテイクオフ」 「E-01、クリアードフォーテイクオフ」 「続いてE-02、ランウェイ02、クリアードフォーテイクオフ。お二人とも、今回も素晴らしき活躍と無事の帰還を」 「ありがと、アイーダ。ったく、一昨日の作戦から休む間もなく…か。ま、そういうお仕事だからな。行ってくるよ。E-02、クリアードフォーテイクオフ」 短い交信の後、勢いよくカタパルトから射出された2機は空中でハーゼンオールを点火、更に加速をつけて内陸方面に向けて勢いよく飛翔する。否、飛んでいるのではない。ハーゼンオールを活かした大跳躍なのだ。 この高出力ブースターと、それに耐えうる機体強度を誇るエーデルシュタインIIだからこそ成立する、超遠距離からの直接侵攻。 目指すはカルナン国沿岸サンテ市。 そう、T-56の救難信号ははるか海上を航行中のロンスヴァルへ届いたのだ。この時代貴重となっているデュランダーナが所持する衛星軌道上に存在する監視衛星からの映像で救難信号発信地点の異変を確認したロンスヴァルは、スクランブルでエーデルシュタインII二機を発進させた。 デュランダーナは大西洋上を巡り、自軍の危機と認められた場合のみ独自の判断によって戦場への介入が認可されているワイズ連邦軍特殊部隊なのである。 〜続く

空母「ロンスヴァル」より緊急発進するエーデルシュタインII E-01。

朝陽を浴びて輝く姿は兵器とは思えないほど美しい。

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© NAOKI

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