
SIDE:R Episode VOGEL'G
アルファ・キラー
前編
著:NAOKI
イラスト:森下直親
「ミスタAK、情報どおり目標の捕虜収容所を発見。ここからは歩兵部隊が突入するので周りのエグゾスケルトンたちを牽制してください」 上空後方で旋回待機している輸送機のCDCから通信が入る。現在彼らがいるのは度重なる戦闘によって半ば廃墟と化した市街地。なるほどレーダーモニター内に多数のエグゾスケルトンを纏った敵兵士のマーカーが確認できるが、視認は出来ない。 身を隠す場所には事欠かない廃墟は彼らの格好の戦場と言える。 待ち伏せ・・・か。 どうやらこの廃墟を抜けた先に目標施設があるらしい。 ミスタAKと呼ばれた男が搭乗しているのは6mクラスの機動兵器、リーパー。相対しているのは歩兵とはいえ敵はエグゾスケルトン=強化外骨格スーツを装備した超人的な力を発揮する兵士達だ。下手をすればリーパーだって食われる。油断は出来ない。 加えてこちらが随伴している歩兵部隊は特殊スーツを着ているとは言え通常の兵士、エグゾスケルトンを纏った敵兵に比べたら布切れみたいなものだ。 「歩兵部隊、突入開始」 CDCからの合図と同時に歩兵部隊が一斉に動き出す。 「隊長、来ます」 部下からの通信を確認するまでもなく、歩兵部隊の突入と同時に周辺の廃墟となったビルの四方からエグゾスケルトン兵がこちらへ飛びかかってくるのが見える。生身の兵士とは思えない機動力だ。 AKは向かってくるエグゾスケルトン兵に躊躇なくリーパー、フォーゲルグの右腕に装備されたガトリング・ガンを放って味方歩兵の進行ルートを作る。 2名ほど撃ち漏らしたが、部下のリーパーを1体護衛につけたのでうまくやってくれるだろう。 「ミスタAK、援護を感謝する。これより我々は施設に突入するする。ご武運を」 歩兵部隊から通信が入る。 彼らを援護できるのはここまで。まずは第1段階クリアー。 彼と他の部下はここに残ってやる事があるのだ。 AKはアムシール国の外人部隊「フューネラル」を率いている傭兵だ。アムシールは宗教上の理由からリンケージ施術=体内に該当兵器やスーツとリンクするためのナノサイズデバイスを埋め込む処置、が禁止されていた。神から賜った肉体に異物を埋め込む事は禁忌とされているのだそうだ。 だからアムシールの軍ではリンケージを必要とするエグゾスケルトンやαグレードグリムリーパーは運用されていない。そしてそれはアムシールの国民ではない外人部隊も例外ではない。戒律によって得られるべき力を得られない。オレと同じか。いや、違う。オレには選択肢はなかった。神に見放されたのだ。 「残ったエグゾスケルトン兵も沈黙。歩兵部隊、これから目的地に突入します。陽動に引っかかった敵GR部隊が間も無くこちらに向かってくると思われます。ミスタAK、ここからはあなた方の出番ですが…本当に援護は必要ないのですね?」 「あぁ、ブリーフィングどおり自分の部下達だけで大丈夫だ。陽動にかかった敵GRは何機だったか。」 「βが3体、αが2体です。それでは今回もジャイアントキリングを期待します。ミスタ アルファ・キラー」 「ふん、ついでのように言う。自分にとってはこっちが本命なんだがな」 「ジャイアントキリングも立派なあなたの任務だと思いますよ、ミスタ」 ジャイアントキリング。文字どおり小さなリーパーで大きなグリムリーパーを倒す。しかし、彼が相手にするのは一般兵が操縦するβではない。リーパーシステムの頂点、つまり現代兵器の頂点に立つリンカーが操縦するαグレードグリムリーパーだ。 リンケージを必要とせず、通常の兵士が運用するための兵器、リーパー。 戒律のためリンケージ施術を禁止されているアムシール軍の主力はリーパーであり、同時に小国ながら世界的にもアムシールのリーパーは高い評価を受けている。 国内に拠点を置き、リーパーの関連装備やモジュールの開発を専門にしている企業、グロステリアの運営に国家予算が充てられていることからも尋常ならざる力の入れ方が伺える。そして、AKがこの国の外人部隊に身を置くのもまさにそれが理由だった。 数年前、彼はある施術に失敗した。現代世界の新ライフラインエネルギーであり、隕石群の落下による世界規模の大災害「審判の季節」以降、地球に突如現れた新エネルギーであるラウジール由来のナノデバイスを体内に埋め込み、戦闘用の機動兵器「αグレードグリムリーパー(αGR)」や強化外骨格スーツ「エグゾスケルトン」と肉体をリンクさせるリンケージ施術だ。この施術を行うことで先述の高性能兵器を扱うことができるようになる。だが、極稀に体質的に受け入れられない人間がいる。彼はその極稀な1人だった。 リンケージは戦闘に特化した技術である。だから日常的には何の問題もない。 だが、幼い頃に戦場で拾われた時からずっと戦場を渡り歩いてきた彼にとって、他に生きて行く術などあろう筈もない。戦場こそが彼の日常なのだ。 そんな彼が更なる強さを欲してリンケージに臨んだ時、それに拒絶された。 これ以上強くなれない。その現実を突き付けられた時、彼は絶望した。絶望を抱えたまま、ただ食い扶持を稼ぐ為だけに無気力に戦場に赴いていた。 そんな中で時折遭遇する圧倒的な力、αGR。エグゾスケルトン兵にやり込められた事も2度や3度ではない。鬱屈した戦場で、いつしか彼はリンカーやバルムンクに対し憎悪の感情を持つようになった。自分を拒絶したものから祝福=チートなスーツや兵器を与えられた奴ら。そんな見方は彼の嫉妬そのものである。その自覚もあった。だが、その感情が彼の生きる目的となり、彼を再起させた。それは人が生きる糧とするにはあまりに苦しいものだったが、絶望を抱えて生きるよりはましな生き方に思えた。 実際彼はリーパー乗りとしては超一流の腕前を持っていた。 βGR=リンケージしていない一般の兵士が操縦可能なグリムリーパーに乗るという選択肢もあった。 だが、彼はリーパーにこだわった。圧倒的な戦力差を覆してαGRを倒す。それこそが彼の存在証明となっていたのだ。 そして実力と執念で何度もそのジャイアントキリングを行ってきた。そんな彼についた通り名が「アルファ・キラー」。αGRを狩る者である。 「気をつけてください。先行した敵α2体が猛スピードで接近中です。会敵予想時間は2分40秒後。最終確認です。本当にあなたの部隊だけで良いのですね?ミスタ」 「あぁ、いい。他は下がらせてくれ。準備は済んだな?リロイ」 「はい隊長。しかし、あんなもんで大丈夫ですか?」 「なに、何度も使える手ではないが単純な罠ほど見抜かれにくいものだ。奴ら振り回されて相当頭に血が昇ってるしな。仕留めきれなくてもダメージを与えられれば上々だ。残りのβは任せたぞ」 「αが来なけりゃなんとでもなります。信頼してますけど、隊長もお気をつけて」 「あぁ。時間だ、行くぞ」 廃墟の向こうにこちらへ突進してくるαGR2体が巻き上げる土煙とスラスターの噴射光が目視出来る。さぁ来い。持たざる者の意地を見せてやる。 〜続く〜




